

サイエンス誌に論文発表:昆虫の生物多様性が、生息地の人為的撹乱で劣化するプロセスを見える化
写真:UnsplashのBrian Wangenheimが撮影
弊社代表取締役CEOの久保田(琉球大学・教授)が参画した国際共同研究の共著論文が、サイエンス誌に発表されました。昨年発表した鳥類の生物多様性消失を可視化したサイエンス誌の論文、植物多様性消失を可視化したネイチャー誌の論文に引き続き、昆虫の生物多様性消失を可視化した成果になります。
Cong Liu, Evan Economo et al. Genomic signatures indicate biodiversity loss in an endemic island ant fauna
https://www.science.org/doi/10.1126/science.ads3004
論文概要
世界的に昆虫個体群の減少が進行しています。昆虫類は受粉や害虫防除など、農作物の安定生産に関わる重要な生態系サービスを提供しているので、昆虫の生物多様性消失は、私たちの社会・経済に悪影響を与えます。したがって、昆虫個体群の減少の規模と要因に関する科学的知見は、私たちの暮らしの持続可能性を保つために極めて重要です。
しかし、昆虫の個体群動態を長期・広域的にモニタリングすることは、とても困難です。そこで、このような難題を克服すべく、本論文の研究を主導したツォン・リウ博士とエヴァン・エコノモ教授は、数十年に渡って集積された博物館標本に「群集ゲノミクス(群集遺伝学的手法)」を適用し、特殊なシーケンシング手法により、断片化したDNAを比較しました。これにより、過去を数百万年も遡った昆虫の個体群動態の定量が可能になりました。
フィジー諸島のアリ群集をモデルにして、100種以上のアリの博物学的標本から、数千個体のゲノムを解読し、これらのデータをもとに、アリがフィジー諸島に移入・定着した事例を65件確認し、数百万年にわたるフィジー島嶼におけるアリの進化的多様化、すなわち、アリの祖先種が島に入植してから、数多くの固有種が進化し、現在のアリ群集を形成した歴史と、近年のアリ種個体群動態を推定しました。その結果、驚くべきことにフィジー諸島の固有種の79%が減少傾向にあり、この減少は約3000年前のフィジー諸島におけるヒトの到来・入植後に始まり、過去300年で加速したこと、そして個体群減少の主な要因は、生息地の人為的撹乱であることが明らかになりました。
この論文は、長期的な生物多様性トレンドを可視化する上で、自然史研究の賜物である博物館標本の重要性を示し、島の生物多様性が人為影響に対して脆弱であることを浮き彫りにしています。