里山が消える: 高齢化・人口減少による土地利用変化と生物多様性の保全
日本の人口減少を地図化
日本は、今後、人口が減少し、2050年を過ぎる頃には、一億人を下回ることが推計されています。人口動態の予測は精度が高いので、これから数十年先の人口減少のトレンドは間違いないでしょう。
現在の日本の高齢化率の空間パターンを地図化してみました。高齢化率とは、65歳以上人口が総人口に占める割合です。全国的に高齢化が進行しています。
下の左の地図は現在の人口分布で、右の地図は2050年の人口分布予測です。黒色のエリアほど、人口が少ない地域です。2050年は日本全体が黒っぽくなっており、特に、首都圏以外の内陸地域が黒色に変化している(人口減少が著しい)ことがわかります。
さらに、現在と2050年の人口変化を見てみましょう。下地図の、紫っぽい色の箇所ほど人口減少が著しい地域です。人口が増加する赤色の地域は、ほとんどありません。
全国的に、都市郊外から内陸にかけての中山間地域で、人口減少の傾向が顕著です。
このような、人口減少は社会経済的な問題だけにとどまらず、地域の土地利用、及び、生物多様性の保全計画にも影響を与えそうです。
日本の土地利用を地図化
下の地図は、日本の森林の空間分布です。森林とひとくちに言っても、自然の森から、人手の加わった二次林、人工的に樹木が植栽された人工林まで様々です。
生物多様性の保全を考える場合、自然林はもちろん重要です。実際、自然度の高い森林は、国立公園のような保護区で保全されています。
一方、人為的に管理されている二次的な生態系も、生物多様性のゆりかごとして重要な役割を果たしています。
里山は生物多様性のゆりかご
里山は、人間が定期的に森林伐採や草刈りをすることで、植生遷移が制御されて、生物多様性が維持されているユニークな生態系です。里山のイメージについては、以下の動画もご覧ください。
私たちの研究プロジェクトで、日本の生物多様性の保全優先地域をスコアリングすると、里山の生物多様性の保全効果が大きいことが明らかになっています。
下の地図は、土地利用様式を考慮した保全重要地域のスコアリング分析の結果です。濃い緑色の箇所ほど、生物多様性の保全効果が大きな里山であることを示しています。全国各地に、保全上重要な里山が分布していることがわかります。
人口減少が進行していくと、このような生物多様性の保全効果の大きい里山は、どのようになるのでしょうか?
消えゆく里山を地図化
今後の里山の行く末を予測するために、過去30年の間、里山がどのように変化しているのかを地図化してみました。
1979-1998年に行われた植生調査と、1999年から現在まで新たに行われている植生調査の結果を利用して、里山の構成要素(二次林、二次草原、耕作地)の面積の増減を描きました。植生調査が十分行われいない地域(国土の19%ほど)は情報が不足しているので、白抜き表示になっています。
青色の箇所ほど、里山の構成要素が減少した地域です。
黄色や赤色は里山が増加した地域ですが、そのような地域はとても少ないです。
日本全体では、里山の構成要素(二次林、二次草原、耕作地)は、過去30年で6%減少しています。さらに、その内訳には、以下のように大きな差があります。手入れされなくなった二次草原や耕作地の大部分が森(二次林)に遷移してます。
二次林 30年で19%増加
二次草原 30年で51%減少
耕作地 30年で23%減少
ここ30年をみても、管理放棄による里山の消失は顕著です。したがって、今後も人口減少が進行すると、この傾向はより加速化するでしょう。
地域社会が高齢化して人口が衰退した場合、土地管理の様式が変化して、里山が消失し、日本の生物多様性が大きく変化することが予想されます。
別の記事で、生物多様性保全利用のアクションプランを策定する際、温暖化のような気候変動適応の必要性を指摘しました。それと同時に、今回の記事で紹介したように、人口減少に伴う地域社会の構造変化を把握して、適応的な里山管理策を検討することが重要です。
※本記事のグラフは、環境省の環境研究総合推進費プロジェクト(環境変動に対する生物多様性と生態系サービスの応答を考慮した国土の適応的保全計画)の結果の一部です。