熊本の生物多様性
はじめに
都道府県ごとの生き物分布と、生物多様性の特徴を分析しています。この記事では、熊本県(私の地元)の生物多様性について解説します。
熊本県の生き物の分布記録を整備して、種類ごとに分布地図を描きました。そして、全種の分布地図を重ね合わせると、種数地図になります。
また、各種の分布を予測する場合に、気候など環境要因だけで分析すると種の潜在的な分布を予測でき、土地利用など人為影響も含めて分析すると種の実際の分布を予測できます。このような分析によって、生物種の分布の変化を把握することもできます。例えば、人為活動による土地利用の変化が、日本の生物多様性に与えた影響も定量することが可能です。あるいは、気候変動による生物分布の変化を検証できます。この点については以下の記事をご覧ください。分析方法と日本全体の傾向がわかります。
https://note.com/thinknature/n/n13c6efe5ecc6
https://note.com/thinknature/n/n80c933e68777
生物多様性の可視化:種数地図
熊本県内に分布している木本(樹木)、草本、シダなどを含む維管束植物の種数マップを以下に示しました。右地図が潜在種数で、左地図が実現種数です。阿蘇や河川流域(菊池川・白川・緑川・球磨川など)の植物多様性が高いことがわかります。また、人為的な土地利用によって、潜在種数のパターンが変化していることがわかります。
哺乳類の種数マップは、以下のようになりました。大分県境の九重山から阿蘇山、そして九州山地が、哺乳類の種多様性のホットスポットです。また、河畔域の緑地が、哺乳類の重要な生息地や回廊(コリドー)として機能していることがわかります。
下の写真は白川中流の上空から下流域を空撮したものです。上右の地図で、赤色のメッシュが線状になっているのは、下写真の白川河岸段丘の緑地回廊です。
以下は九州山地の空撮写真で、左下は氷川ダムと釈迦院付近です。
鳥類の種数マップは下のようになりました。有明海や八代海に注ぐ河川(菊池川・白川・緑川・球磨川など)流域、有明海や八代海の沿岸の低地や隣接する干潟域が、鳥類の多様性ホットスポットであることがわかります。
下の写真は、白川が有明海に注いでいる河口と干潟です。
下の写真は、八代海と下天草の島々です。
爬虫類は、河川流域や低地の種多様性が高いです。また、天草や宇土半島など、気温が比較的高い地域でも、爬虫類の多様性が高い傾向があります。
両生類は、大分との県境の山地部に多様性のホットスポットがあります。また、河川流域や低地の一部でも種多様性が高くなる傾向があります。
最後に淡水魚類の種数マップです。熊本は日本有数の淡水魚類の多様性ホットスポットです。菊池川、白川、緑川、球磨川などの流域、それらに関係した平野部の水系は淡水魚の種数がとても高いことがわかります。
下の写真は、熊本市の淡水魚類のホットスポット、江津湖です。
今回の記事で紹介した生物多様性マップから、阿蘇山、有明海や八代海沿岸域、九州山地が、植物、哺乳類、鳥類、淡水魚類、両生類などの重要地域であることが一目瞭然です。また、熊本には素晴らしい河川が多数あり、河川流域が様々な生物の生育場所になっていることがわかります。
熊本には、火山や山地があり、それらから流れ出る河川があり、有明海や八代海があります。河川流域を介して、山地と平野部の両方の生物相、さらには干潟を含む沿岸海域の生物相の要素まであるので、日本有数の生物多様性のホットスポットなのです。
熊本の一般の人たちは、地元の生物多様性の凄さや面白さに、気づいていないかも知れません。以下の動画もご覧ください。
熊本県の生物多様性地域戦略や熊本市の生物多様性地域戦略などを通して、熊本の貴重な自然環境の情報を市民に普及させて、適切に保全利用することが重要です。そのことは、生物多様性国家戦略にも大きく貢献することになるでしょう。これについては、また別の記事で(続編を書いてみたので、以下をご覧ください)。
https://note.com/thinknature/n/n8be98f526d0e
本記事の分析結果の関連論文
久保田 康裕, 楠本 聞太郎, 藤沼 潤一, 塩野 貴之 生物多様性の保全科学:システム化保全計画の概念と手法の概要. 日本生態学会誌 67: 267-286.