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シカ個体群の重点管理地域の特定:国家戦略と地域戦略の観点から考える

シカ個体群管理の問題

シカ個体数の増加は、日本の陸上生態系に深刻な影響を与えています。シカによる食害は、各地の植物多様性を劣化させ、生態系サービス(木材生産や炭素貯留量など)にも悪影響を与える可能性があります

例) ま、獲らなければ ならない理由 – 環境省 参照

したがって、シカ個体群の管理は、生物多様性国家戦略や地域戦略においても重要な課題です。

一方、シカ個体群管理に投下されるリソース(予算や人員など)は有限です。

よって、シカ個体群を効果的に管理する場合、どの地域に、どのような対策(個体数管理やモニタリング等どのように実施)をすべきか、マクロな視点と戦略が必要で、限られた予算や人員を最適配分して、シカ管理の実効性を強化すべきです。

このような観点から、シカ個体群の重点管理地域を、植物多様性保全の観点から分析してみました。今回の記事では、分析結果の一部を紹介したいと思います。

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シカ個体群の地図化

以下の地図は、シカ個体群の分布と個体数密度を示しています。

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シカの餌植物の地図化

同時に、 シカの餌となる植物の多様性地図情報も、以下のように可視化しました(元論文はKubota et al. 2015)。

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植物種多様性のパターンは以下の動画でも閲覧できます。

https://www.youtube.com/watch?v=OHJxjYpz_ns

そして、シカの食害情報から、シカが好んで食べる植物(餌メニュー)を把握しました。生物は系統的に近縁な種間で性質が似通っている傾向があります。ある植物種がシカに好まれて食べられる場合、その植物種の近縁種も同じようにシカに好まれて食べられやすいと仮定できます。

この仮定の下で、シカが未だ分布していない(食害が発生していない)地域の植物が、どれくらいシカ食害を受けるかを予測しました(元論文はKusumoto & Kubota 2014参照してください)。

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シカ食害リスクの地図化

餌植物の系統関係から、シカに食べられやすい植物種を推定し、その推定結果から、シカによる食害を受けやすい地域を予測した結果が、以下のシカ食害(植物群集の脆弱度)の地図になります。

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そして、以上のシカ関連の地図情報と植物多様性保全重要地域のスコアリング情報(以下の動画で可視化されたスコア)を重ね合わせて分析して、シカ個体群の重点管理地域を特定することができます。

https://www.youtube.com/watch?v=Jsj41CLyIZk

シカ個体群の重点管理地域はここだ!

以下の結果をみてください。

下の右グラフの横軸は、各土地区画の植物多様性の保全優先度で、縦軸がシカ密度で、シンボルの色がシカ管理の緊急性を示します。シンボルの色を右の地図上に展開して、各地域のシカ管理計画を提案できます。

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赤い地域:シカ脅威と保全重要度が重なる地域で、シカ駆除努力による生物多様性保全効果の高い、シカ駆除の重点地域です。

黄色の地域:シカ個体群の制御努力が重要で、これ以上個体群密度を増やさない対策が求められる地域です。

緑色の地域:現状ではシカによる脅威は顕在化していないので、シカ個体群の新規的な侵入がないかを把握するようなモニタリングに注力すべき地域になります。

このような結果を元にして、シカ個体群管理の重点地域を特定して、シカのリスクの緊急性に応じた対策を施すことができます。マクロな視点でシカ問題を分析して、シカ管理の国家戦略のようなものを定義できればいいのでしょう。

また、このような分析結果を基にして、生物多様性地域戦略へのシカ問題の組み込みやシカ個体群管理のアクションプランにつなげていくべきでしょう

本記事のグラフは、環境省の環境研究総合推進費プロジェクト(環境変動に対する生物多様性と生態系サービスの応答を考慮した国土の適応的保全計画)の結果の一部です

https://thinknature.studio.design/

https://note.com/thinknature/n/naab800f2999a

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