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【研究紹介】先進国が途上国へ輸出する森林破壊(ファイナンスシリーズ第4回)

執筆者:Tsuyoshi Hatao

熱帯コモディティの生産による森林破壊の問題は、それを消費する先進国での経済活動と密接に繋がっています。HoangとKanemotoは、農地の空間分布データ、森林伐採履歴、物流統計を組み合わせた解析により、先進国が途上国に「輸出」している依存とインパクトを可視化しました。この研究によって明らかになった事実を以下に紹介します。

文献情報:Hoang, N.T., Kanemoto, K. Mapping the deforestation footprint of nations reveals growing threat to tropical forests. Nat Ecol Evol 5, 845–853 (2021). https://doi.org/10.1038/s41559-021-01417-z

先進国による森林破壊の外部化とグローバルな構図

近年、中国やインドでは国内森林面積が増加し、G7諸国でも国内の森林保全が進んでいます。しかし、これらの国々は依然としてブラジルや東南アジアなど熱帯地域で生産された農産物・畜産物・木材などを大量に輸入しており、その需要が熱帯雨林の森林破壊を加速させています。つまり、先進国は自国の消費を通じて、森林破壊を途上国へ「輸出」している構図が明らかになりました。G7諸国の消費は、1人当たり年間平均3.9本の樹木損失を引き起こしており、国際貿易に伴う森林破壊のホットスポットは東南アジア、マダガスカル、リベリア、中米、アマゾン熱帯雨林など、生物多様性のホットスポットとも重なっています。

貿易統計と空間データを用いた森林破壊フットプリントの定量化

本研究は、30m解像度の衛星画像による森林喪失データと、多地域産業連関分析(MRIO)モデルを統合し、消費国ごとの森林破壊フットプリントを高精度で算出しています。まず、森林喪失の要因を「農業・商品生産(52%)」「林業(32%)」「都市化(16%)」の3タイプに分類。次に、各国・各産業の経済活動1単位あたりの森林破壊強度(生産額あたりの森林喪失面積)を算出し、国際貿易統計を用いて生産国から消費国までのサプライチェーンを追跡します。これにより、直接輸入だけでなく中間財を介した間接的な森林破壊まで消費国に割り当てることが可能となっています。各国の森林破壊フットプリントは、地域レベルの喪失要因によっても異なります。例えば、米国・ドイツ・イタリアによるコーヒー輸入はベトナム中部高原の森林破壊を引き起こし、ベトナム北部の木材伐採は中国・韓国・日本向け輸出が主流です。ブラジルではマタ・アトランティカ産木材が国内消費される一方、EU諸国・米国・中国の需要はアマゾンとセラードのバイオームにおける大豆・牛肉生産による森林破壊を推進しています。日本の木材消費はサラワク州(ボルネオ島)の森林に最大のリスクをもたらし、中国の需要はマレーシア半島から東部にかけてのアブラヤシ・ゴム・カカオ農園拡大の主な原因となっています。

G7、中国・インド、ブラジル・インドネシア・メキシコ、残りのG20メンバー、および非G20諸国の5グループについて分析した結果、全体として、すべてのグループで森林増加または純損失の減少となっていますが、中国・インド、およびG7は、貿易を通じて国境を越えて森林破壊を増加させています。ブラジル・インドネシア・メキシコ、および非G20諸国は、貿易調整後の森林増加よりも純損失の減少が緩やかであり、事実上、中国・インド、およびG7の森林破壊フットプリントの増加を吸収しています。

※論文中Fig3 (b)が、2001年から2015年までの森林面積の増減を貿易による森林破壊の輸出入の調整前後で表したものです。

生物多様性・政策的含意と今後の課題

森林破壊による生物多様性損失や環境サービスの低下は、バイオームごとに大きく異なります。熱帯雨林は温帯林や寒帯林に比べて生物多様性が圧倒的に高く、同じ面積の森林破壊でも環境への影響ははるかに大きくなります。実際、国際貿易による森林破壊の36%が熱帯雨林で発生しており、マングローブ林の消失速度も全体平均の5倍以上です。現行のゼロ・ディフォレステーション政策は、こうした空間的・生態学的な違いを十分に考慮していないため、今後はサプライチェーンの透明性向上、官民連携の強化、熱帯地域への経済的支援などを通じて、より効果的な国際的取り組みと政策の再構築が求められます。

金融機関がその投融資ポートフォリオで優先的に対応すべきセクターとして、一般的に熱帯コモディティに依存するセクターが挙げられます。それは、熱帯コモディティの生産の環境圧力が高い傾向にあり、その影響が直ちに生態系サービスを劣化させ、依存を通じた物理リスクが顕在化しやすいためだと考えられます。金融機関のリスク管理の観点からは、影響としての森林破壊フットプリント分析としてにとどまらず、その依存と物理リスクの経済価値の大きさへの示唆とみなすことも重要と考えます。