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金融機関にとってのTNFDの今後(ファイナンスシリーズ第1回)

執筆者:Tsuyoshi Hatao

金融機関のネクストステップ

2025年度には、TNFDレポートに基づく企業の情報開示が広く浸透することが期待されています。これにより、自然資本回復への資金流入強化や、金融システムの安定に資する自然資本リスクの適切な管理が本格化します。
自然資本の損失は、投融資を通じて金融機関の収益に悪影響を及ぼす可能性があり、リスク管理の観点から自然資本回復への行動を促進することがTNFDの目的です。

金融機関にとって次なるステップは、進展する情報開示を以下のように活用することです:

  1. 経営戦略と連動した投融資先顧客へのエンゲージメント強化
  2. 顧客や案件ごとのリスク・収益性評価への活用
  3. 自然資本リスクの数値化と資本戦略との統合

特に資金フローの観点では、顧客エンゲージメントを通じて具体的な自然資本保全事業への投融資拡大が期待されます。そのためには、開示情報をもとに潜在需要を発見し、それに対応する保全事業の実行支援や資金調達支援が求められます。このプロセスでは上記1および2が密接に関連します。

自然資本回復・保全を目的とした投融資の課題

自然資本回復・保全事業へのファンディングには以下のような形態があります:

  • 事業への借入や債券発行(例:グリーンボンド)
  • 保全と収益を両立するプロジェクト(例:インパクト投資)
  • 回復・保全効果をクレジットとして売却(例:生物多様性クレジット)

これらの形態に共通する課題は、自然資本回復効果の評価信頼性です。例えば、生物多様性クレジットではカーボンクレジット市場同様、その実効性への疑念が価格下落につながる可能性があります。カーボンクレジット市場ではセカンダリー市場での価格形成が制度設計の根幹をなしているため、保全効果への信頼性低下は致命的です。同様に、インパクト投資や純粋な保全事業でも、保全効果が実現されないリスクは投資家にとって大きな懸念材料となります。

自然資本の回復・保全事業におけるリスク分類

1.効果に関するリスク

  • 実現リスク(期待通りの効果が得られないリスク)
    • 実効性 effectiveness の不足:うまくいっても成果が不十分
    • 実現性 feasibility の不足:うまく実行できない
  • 計測リスク(効果があっても測定できず評価されないリスク)

2.事業運営・商業的リスク

  • 事業運営リスク
  • 市場リスク

事業運営リスクは従来型の投融資と共通部分も多く、既存の枠組みで最小化・分散化が可能です。一方で、効果に関するリスクは自然資本に関する領域に特異なものであると考えられます。自然資本(生物多様性、生態系サービス)に関するデータの精度向上やモデル化手法の進展が、このリスクの軽減に寄与します。地域性や個別性を反映した包括的なデータ活用、中長期的なシミュレーションによってギャップを最小化し、事業価値を高めることが重要です。

科学的根拠に基づく実効性評価

自然資本回復・保全事業を適切に運営・ファンディングするためには、科学的根拠に基づく実効性評価体制が必要です。例えば、専門機関による事前・事後評価は、実効性リスクを最小化する有効な手段となります。

データやモデル技術は日々進歩しており、その活用は専門機関に委ねられるべきですが、金融機関や事業主体も分析結果を適切に活用できる体制構築が求められます。TNFD開示情報が進展する中で、ポートフォリオレベルで統合されたリスク管理と個別案件への深掘り分析が金融機関には期待されます。

特に個別案件では、科学的根拠に基づく保全効果の検証を行い、それをリスク管理プロセスに組み込むことが不可欠です。金融機関として、この責務を果たすことは長期的な収益安定にもつながります。

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参考文献

  • TNFD. (2023). Recommendations of the Taskforce on Nature-Related Financial Disclosures. Taskforce on Nature-related Financial Disclosures (TNFD). https://tnfd.global/wp-content/uploads/2023/08/ Recommendations_of_the_Taskforce_on_Nature-related_Financial_Disclosures_September_ 2023.pdf
  • Thompson, B. S. (2023). Impact investing in biodiversity conservation with bonds: An analysis of financial and environmental risk. Business Strategy and the Environment, 32(1), 353–368. https://doi.org/10.1002/bse. 3135
  • Tom Swinfield, Siddarth Shrikanth, Joseph W. Bull, Anil Madhavapeddy & Sophus O. S. E. zu Ermgassen (2024). Nature-based credit markets at a crossroads. Nature Sustainability, Volume 7, 1217-1220. https://doi.org/10.1038/s41893-024-01403-w