ツキノワグマ 遭遇・被害リスクを地図化
近年、ツキノワグマの被害が頻繁に報道されるようになりました。私たちの研究チームでは、地方自治体等からの相談を受けて、生物多様性地図情報(J-BMP)を基にして、ツキノワグマの遭遇リスクを「見える化」することに取り組んできました。
https://note.com/embed/notes/nf2bf5ed83349
今回、日本全土を対象に、2015年から2019年のツキノワグマに関するデータ(1㎢精度の地理情報49,879件)を整備して、被害リスクを地図化してみました。
以下のグラフは、ツキノワグマの目撃地点を地図化したものです。目撃、痕跡、人身被害、捕獲の情報を基にしています。
これを、年あたり5km四方の目撃回数に変換したのが、以下の地図です。
目撃回数は地域的な偏りが大きいです。東北地方では、米代川(大館周辺)、雄物川、北上川、阿武隈川の流域および三陸海岸の目撃回数がとても多いです。中部地方では、長野市周辺、軽井沢町周辺、北陸地方では富山市、金沢市、大野市の山沿い、近畿地方で京都府北部から兵庫県北部にかけて、中国地方では出雲市から雲南市にかけての目撃回数が多いです。
次に、2015年~2019年にツキノワグマに襲われ人身被害が生じた395件の分布データを基にして、人の生活圏で日常生活中に生じた事故(174件)と、登山、山菜・キノコ採り、釣りなど生活圏外の山中で発生した事故や捕獲中や放獣中の事故(221件)を区分して地図化してみました。なお、詳細な地点情報が記録されている被害だけを分析しているので、実際の人身被害件数はもっと多いです。
ツキノワグマによる人身被害のうち、目撃情報が多い地域で人身被害が生じやすい傾向はあるのですが、人身被害が多い地域は岩手県、秋田県、富山県、石川県、福井県の地域です。また関東地方や長野県は人身被害はあるものの、多くは山中でのレクリエーション中の被害でした。なお、岐阜県は人身被害の情報がまとめられていませんが、比較的事故の少ない地域です。
そして、2015年から2019年に人身被害が生じた地点を在情報とし、目撃回数や人口密度、ツキノワグマの生息適地適正度、気候や地形などの環境要因を予測変数とし、ツキノワグマ人身被害リスクを予測してみました。赤色ほど人身被害が生じる可能性が高いエリアです。
人身被害リスクの高い地域は点在しており、特に、盛岡市、大館市、鹿角市の周辺、富山県、石川県、福井県の山沿いはリスクが高いエリアが広がっています。
さらに、生活圏で人身被害が生じた地点データだけを用いて、人の生活圏におけるツキノワグマ人身事故リスクマップを作成してみました。これも、赤色ほど人身被害が生じる可能性が高いエリアです。生活圏でリスクの高い地点は、岩手県、秋田県、宮城県の一部と、富山県、石川県、福井県の山沿い、兵庫県の西部などです。
以上のように、ツキノワグマ情報と生物多様性ビッグデータを統合的に分析すると、野生生物による被害状況とリスクを可視化できます。
本記事で紹介したような地図情報を基にすれば、ツキノワグマの遭遇リスクや人身被害リスクを軽減するような対策(例えば効果的な啓蒙普及活動など)を考案できると思います。
※本記事のグラフは、環境省の環境研究総合推進費プロジェクト(環境変動に対する生物多様性と生態系サービスの応答を考慮した国土の適応的保全計画)の結果の一部です。
https://note.com/embed/notes/naab800f2999a
https://note.com/thinknature/n/n9961a083491b