モーリシャスの生物多様性:遠くて近い島?
モーリシャスの油流出事故の深刻さが、生物多様性の観点から報道されています。
”モーリシャスは特有の植物や動物が密集する、生物多様性のホットスポットだ。
「風と海水の流れは助けになっていない。重要な海洋生態系のあるエリアに、重油を運んでしまっている」と、環境保護団体グリーンピースの元戦略家で、流出現場近くの島にいるスニル・モクシャナンダ氏はBBCに話した。国連の生物多様性条約によると、モーリシャスの海は、魚800種、海洋哺乳類17種、カメ2種を含む1700種の生き物のすみかとなっている。サンゴ礁、海草、マングローブが、並外れて豊かな海をつくっている。「これだけ豊かな生物多様性のある海は、もうほとんど地球に残っていない」と、英ブライトン大学で海洋生物学を教えるコリーナ・チョカン博士は言う。”
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53774997
そこで、モーリシャスに分布している植物や脊椎動物などの種数を分析してみました。また、モーリシャス の生物多様性の特異性や重要性を理解してもらうために、モーリシャスだけに分布する固有種の数も計算しました。そして、日本と同じ種がどれくらい分布しているのか、また、沖縄の生物種数と比較してみました。
以下の表に示したように、脊椎動物、種子植物、海藻、サンゴだけで、モーリシャス の海域には1947種、陸域には894種、合計2844種もの生物が分布しています。
また、固有種率を見ると、陸上生物の多くが固有種です。例えば、哺乳類や爬虫類は、80%以上の種がモーリシャス固有の生物で、”かけがえのない島”であることがわかります。
海洋生物の固有種率はゼロですが、これは海洋生物の分散能力の高さにも関係しています。様々な海域に分布している生物、つまりコスモポリタンの生物種がモーリシャス には揃っていて”海洋生物の博物館のような島”という見方ができます。
以上のデータから、モーリシャスは生物多様性のホットスポットであることが理解できます。
また、沖縄と生物種数が類似して、共通種が多い点が興味深いです。例えば、マングローブの優占種は、オヒルギとヤエヤマヒルギで、同じです。
さらに、モーリシャスの地理や社会環境も、沖縄島とよく似ています。
モーリシャス の島の面積は沖縄島の1.7倍です。最高標高は約800m(沖縄島は約500m)、人口は126万人(沖縄島は129万人)、年平均気温は23.8℃(那覇は22.8 °C)、平均年間降水量は1616mm(那覇は2022mm)です。そして、モーリシャスも沖縄も、観光業が重要な産業です。
モーリシャスと沖縄には、絶滅危惧種も多く分布しています。例えば、モーリシャスと沖縄はジュゴンの分布周縁で、歴史的な乱獲でジュゴンの地域個体群が絶滅しつつあります。既に絶滅した飛べない鳥ドードーをはじめ、固有の鳥が分布しています。陸上哺乳類のオオコウモリも分布しています。森林で優占する樹木種はDiospyros egrettarumで、リュウキュウコクタンによく似たカキです。
沖縄に住む私たちにとって、モーリシャスは”遠くて近い島”かもしれません。
https://www.asahi.com/articles/ASN973TQWN91UHBI01K.html