森林から都市、そして世界へ。境界を越えて自然とつながる──村松の挑戦
森林から都市、そして世界へ。境界を越えて自然とつながる──村松の挑戦
ARTICLE

森林から都市、そして世界へ。境界を越えて自然とつながる──村松の挑戦

科学と多様な人材の力で、自然と経済をつなぐ挑戦—シンク・ネイチャー

地球規模の環境問題が深刻化するなか、私たちは今、自然環境と経済活動の両立という難題に直面しています。従来の経済活動はしばしば自然資源を消耗させ、生物多様性を脅かすことがありました。しかし、持続可能な社会を築くには、自然と調和した経済活動への転換が不可欠です。

シンク・ネイチャーは、このような課題に取り組むために設立された会社です。最先端の科学的分析を駆使し、生物多様性を守りながらも経済活動を活性化させるソリューションを生み出すことを使命としています。その最大の特徴は、多種多様なバックグラウンドを持つ専門家が集結していることです。生物多様性など自然科学の研究者、コンサルタント、データサイエンティスト、経営管理のプロ、エンジニアなど、さまざまな分野から集まったメンバーがそれぞれの専門性を活かし、力を合わせて問題解決に挑んでいます。

本シリーズでは、シンク・ネイチャーの個性豊かなメンバーのストーリーを通じて、そのユニークな取り組みと魅力に迫ります。

森林から都市、そして世界へ。境界を越えて自然とつながる──村松さんの挑戦

「自分が集めているデータが、社会を動かす力になるかもしれない。そう思えたとき、ここで働く意味が一段と深まりました」

そう語るのは、ビッグデータ開発部に所属する村松優子さん。2024年にシンク・ネイチャーへ参画するまでに、国立公園の現場案内や森林土木コンサルタント、大学での研究支援など、フィールドと技術の両面で森林に関わってきた。樹木医の資格も持ち、森林病害に関する専門知識を現場で活かしてきた経験もある。

「外に出て、木を見て、植物を見て、そこから情報を取るというのがずっと自分のやり方でした。今はパソコンの前にいる時間が長くなりましたが、画面に映る数字や地図の背後に、風や匂いのある風景を思い浮かべながら見ています。現場での経験があるからこそ、データから見えてくるものの深さが変わってくると思うんです」

森林の現場から、世界の自然へ

村松さんがこれまで関わってきたのは、主に国内の森林。測量や設計、自治体の森林整備支援など、地域の課題に寄り添う形で自然と向き合ってきた。

現在シンク・ネイチャーで担当しているのは、論文や衛星画像など多様な情報源から生物多様性に関するデータを収集・加工し、チームに提供する仕事だ。GISのスキルを活かして、論文に記載された地点情報を空間データとして結びつける「ジオリファレンス」の工程にも携わる。

「扱う情報のスケールが大きくなったのが大きな変化です。以前は一本の木や特定の地域にフォーカスしていましたが、今は世界中の自然資本が対象になっています。同じデータでも、誰が見るかによって引き出される価値が変わる。日々、自分が見ていた世界が広がっていくのを感じています」

「生物多様性」の見え方が変わった

入社前、村松さんにとって「生物多様性」とは、自らが現地で見てきた森林の豊かさを指す言葉だった。しかし入社後、その見方が大きく変わったという。

「生物多様性は森林だけの話ではなくて、都市にも可能性がある。子どもの頃は街中で育ち、自然の豊かさは山の中にあるものと思い込んでいました。でも今は、都市部での緑地保全や配慮の取り組みも、生物多様性の向上に貢献していることが、シンク・ネイチャーのデータからはっきりと見えるようになっています」

自然は限られた場所だけにあるものではなく、どこにでも可能性がある。そしてその可能性を“見える形”にすることで、社会の行動を変える力になる──そんな実感が、大きな転換点になった。

「自然はただ守るだけのものではなく、育てていくこともできる。未来に向けて、変えていける。そんな考え方が少しずつ芽生えてきました」

シンク・ネイチャーの答えを、自分の中に持ち歩く

村松さんがシンク・ネイチャーに惹かれたのは、九州大学演習林での仕事がきっかけだった。ドローンを用いた森林調査のプロジェクトで出会ったのが、同社立ち上げメンバーである楠本さんだったという。

「研究の世界では、データが論文になることが一つの到達点で、その先はきっとだれかの役に立つだろうという漠然とした思いでした。でも、シンク・ネイチャーでは、集めたあらゆるデータが自然資本の評価につながり、社会の見方を変えていく。“社会を動かすためのデータ”という発想に、すごく惹かれました」

大学の技術職員として勤務していたところ、北海道への転勤をするかどうかという選択に直面。「もうこういう会社に関われるタイミングは来ないかもしれない」と直感し、思い切ってシンク・ネイチャーに転職し、沖縄に移住した。

「いずれはまた現場に携わりたいという気持ちもある。でも、シンク・ネイチャーで出された“答え”を、自分のなかに持った状態で自然と関わっていきたい。主張だけではなく、確かな根拠をもって現場に向き合いたいんです。そしてその根拠が、現場の選択肢を広げたり、自然を守る行動の後押しになったりすることを願っています。」

一緒に働きたいのは、“越境”を楽しめる人

最後に、「どんな人と一緒に働きたいですか?」という質問には、こんなふうに答えてくれた。

「自然が好き、だけでも十分だとは思うんです。でも、それだけでなく、いろんな分野の人と関わることを楽しめる人がいたらうれしい。シンク・ネイチャーでは、分野や視点を行き来しながら、新しいものを生み出していく仕事が多いから」

森林と都市、現場とデータ、国内と世界。境界を軽やかに越えながら、情報と価値をつなげていく村松さんの仕事は、シンク・ネイチャーという組織の未来像を体現している。